天然酵母パン作りを始めると、よく耳にするのが「オーバーナイト発酵」という言葉。
一体どんな方法なのか、どのような目的やメリットがあるのか気になる方も多いのではないでしょうか。
この記事では、天然酵母歴10年の私ノムが、天然酵母パンにおけるオーバーナイト発酵の基本から具体的なやり方、発酵時間の目安までを詳しく解説します。
オーバーナイト発酵とは?
オーバーナイト(overnight)とは「夜通し・翌日まで」という意味。
パン作りにおけるオーバーナイト発酵とは、一次発酵または二次発酵を低温で長時間かけて行う方法のことです。
例えば、夜にこねた生地を冷蔵庫で一晩寝かせ、翌朝までゆっくりじっくり発酵させる方法です。
これは天然酵母に限ったことではないですが、特に天然酵母はドライイーストに比べて発酵が穏やかなので、冷蔵庫や寒い部屋に置いてもじっくりと発酵が進みます。
インスタントドライイーストを使ったパンの場合は、ドライイーストの量を最小限に減らし、低温で長時間発酵させることで噛み応えのある風味豊かなパンに仕上げられます。
低温長時間発酵が美味しくなる理由
1. 酵母の働きがゆるやかになる
低温(冷蔵庫など)で発酵させると、酵母の活動がゆっくりになり、急激にガスが発生しません。そのため生地が落ち着いて熟成され、しっかりとした風味が生まれます。
2. 乳酸菌や酢酸菌が活発になる
パン生地には酵母以外にも乳酸菌や酢酸菌などの微生物がいます。低温ではこれらがじっくり働き、
- 乳酸 → まろやかさ
- 酢酸 → ほんのりした酸味
を与えてくれるため、複雑で深みのある味わいになります。
3. 小麦のうま味成分が分解される
酵素がゆっくり働くことで、小麦粉に含まれるデンプンやタンパク質が分解され、
- アミノ酸(旨味)
- 糖分(甘み)
が増えます。これが焼成時の香ばしさや味の奥行きにつながります。
4. 焼き上がりの香りが良くなる
長時間発酵で生成されたアミノ酸や糖分が、焼くときに「メイラード反応」を起こし、クラスト(パンの皮)の香ばしさや焼き色を引き立てます。
5. 食感が良くなる
低温でじっくり発酵させると、グルテンが安定し、生地がしっかり熟成されます。そのため、
- もっちり
- しっとり
- 口溶けが良い
といった理想的な食感になりやすいです。
低温長時間発酵が向いているパン
ハード系パン(バゲット・カンパーニュ)
- 外はパリッと、中はもっちり
- 小麦の香りや発酵の風味をしっかり楽しみたいパン
- 長時間発酵で旨味や香ばしさがぐっと増す
👉 本格派のハードブレッドはほとんど低温長時間発酵を取り入れています。
リーンなパン(油脂・砂糖少なめ)
例:プチパン、チャバタ、フォカッチャなど
- 砂糖やバターが少ない分、生地自体の風味が命
- ゆっくり発酵させると小麦本来の味が引き立つ
天然酵母パン
- 酵母がゆっくり働く性質を持っているので相性抜群
- 酵母の個性(レーズン酵母のフルーティさなど)が際立つ
4. ベーグル
- 一見早く作るイメージがあるけど、低温発酵を取り入れると
- 旨味が増す
- 皮がパリッ、中はむっちり
- 「本格派ベーグル」に仕上がります
あまり向いていないパン
1. 菓子パンやリッチ生地(ブリオッシュ、メロンパンなど)
- バターや砂糖が多く、生地自体がリッチなので風味は十分
- 長時間発酵すると逆に「軽さ」が失われることも
2. ふわふわ系の食パン(即席で食べたいとき)
- ふわふわにしたい場合は短時間で焼いた方が軽い仕上がり
- ただし「旨味重視の本格食パン」なら低温発酵も◎
オーバーナイト発酵のメリット
私は初めてオーバーナイト発酵で作った時、劇的にに美味しくて感動しました。お手軽さで言えばむしろオーバーナイトの方が時間に余裕があるので、余分に手間がかかるなんてこともありません。
正直なところ、特にハード系パンに置いてはオーバーナイトを取り入れない手はないとさえ思います。
オーバーナイト発酵を取り入れると、次のようなメリットがあります。
- 風味が良くなる
ゆっくり発酵させることで生地の甘みが引き出され、パンの香りや味わいが深まります。 - 生地の状態が安定する
長時間かけて水分が行き渡り、グルテン膜がしっかり作られるため、成形しやすくなり、クープ(切り込み)もきれいに開きやすくなります。 - 時間を自由に調整できる
通常はパンの発酵中は外出できなかったりと何かと予定を立てにくかったりしますが、オーバーナイト法で夜に仕込んで冷蔵庫に入れておけば、翌朝好きなタイミングで作業を再開できます。
仕事や家事で忙しい方も、発酵を待つストレスが減り、生活リズムに合わせやすいのが大きな魅力です。
天然酵母パンのオーバーナイト発酵のやり方
実際の手順を順番に見ていきましょう。
- 生地をこねる(約30分)
天然酵母を使って、いつも通りの手順でパン生地をこねます。 - 冷蔵庫で一次発酵オーバーナイト(12時間~24時間)
捏ねあがった生地をボウルに入れ、ラップをして冷蔵庫に入れます。冬場であれば、暖房のかかっていない寒い部屋に置いてもOKです。 - 翌朝、生地を常温に戻す(約1時間)
翌朝または数時間後、生地が約2倍に膨らんだら冷蔵庫から取り出し、常温に戻します。冷たいままではなく、必ず室温に戻してから次の工程へ。 - 二次発酵〜焼成(約1時間)
その後は通常通り、ガス抜き → 二次発酵 → 成形 → 焼成の流れで仕上げます。
パンによってはこの二次発酵でオーバーナイトにすることもあります。
カンパーニュの場合、私はこの二次発酵でオーバーナイトまたは長時間冷蔵発酵させています。手順の都合や好みもあるかと思いますが、味に深みが出て美味しいので一度試してみて下さい。
オーバーナイト発酵時間の目安
オーバーナイト発酵の時間は、生地に使う酵母の強さや量、季節や室温によって変わります。
- 一般的には「夜に仕込み、翌朝〜午前中まで冷蔵庫で発酵させる」のが目安。
- さらに長時間発酵させたい場合は、酵母の量を減らして調整するとよいでしょう。
- 必ずしも「一晩」である必要はなく、朝仕込んで翌朝まで置くなど、生活スタイルに合わせて柔軟にアレンジできます。
天然酵母パンはオーバーナイト発酵で劇的に美味しくなる! まとめ
オーバーナイト発酵とは、低温で長時間かけて生地を発酵させるシンプルな方法です。
- パンの風味が豊かになる
- 成形や焼き上がりが安定する
- 時間を調整しやすい
といったメリットがあり、天然酵母パン作りにとても相性が良い発酵法です。
「難しそう」と感じるかもしれませんが、実際には生地を冷蔵庫に入れて寝かせるだけ。ぜひ一度試して、ゆっくり発酵させたパンの美味しさを楽しんでみてくださいね。
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